大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ツ)20号 判決

静岡県沼津市小諏訪五六五番地

上告人

確信運輸株式会社

右代表者代表取締役

牧野信雄

右訴訟代理人弁護士

中条政好

静岡県沼津市米山町三番三〇号

被上告人

沼津税務署長

神戸毅

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四一年(行コ)第三一号法人税更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四六年一二月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中条政好の上告理由について。

所論の点に関する原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

(昭和四七年(行ツ)第二〇号 上告人 確信運輸株式会社)

上告代理人中条政好の上告理由

前がき

一、原判決の構成は(一)上告人の自白に関するもの、(二)は当裁判所も税法上譲渡所得に対する課税は資産の売買・交換等譲渡を契機に顕在化した右資産の値上り益に対し課税することを本質とするものであり、従つて右資産の取得価額と譲渡価額の差額に課税するをその本旨とするものと考える旨を述べ、原裁判所自体が資産の値上り益に対する課税に関する見解を示し、(三)にその他は一審判決と同一であるから、これを引用すると述べている。

二、そこで

〈1〉 一審判決の構成を見る。処が上告人は当該土地交換の相手方訴外株式会社川野立志堂に対し現金九五〇万円、建物評価額で五九万円、計一、〇〇九万円相当の交換差金を支払つている。しかし、この場合当該交換は民法第五九八条第二項に該当する。その結果、当該交換差金一、〇〇九万円に相当する部分の会計処理はこれを売買代金として処理し、物と物との交換に関する会計処理は法人税法施行規則(昭和三四年政令第八六号)第十三条の六第一項の適用があるものと判断し同規則を適用して処理した。即ち、当該交換は法人税法施行規則第五号の規定により当該資産を交換し且会計処理については規則第十三条の六第二項及び同項二号及び三号の各規定を適用して譲渡資産の譲渡直前における帳簿価額を算定し、この金額一三、二四六、七八〇円を取得資産の評価額としてこれを財産目録(甲六号二六頁参照)に記載した。

〈2〉 当該会計処理において上告人が取得資産の評価額を被上告人が主張する三四、四〇八、三八〇円と財産目録に記載しなかつた理由は、交換価額を決めて交換したものでなく、また当該交換における譲渡資産(土地等)を上告人は一年以上所有しており、取得資産は取得した日より譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供していたからである。

〈3〉 またこうした交換を法人が行つた場合、規則第十三条の七第一項の規定により法人税法第十八条の確定申告をする際、同時に交換に関するこの申告をすることを条件に前記譲渡資産の譲渡直前における帳簿価額(一三、二四六、七八〇円)と取得資産の取得価額(時価ここでは三、三六〇万円)との差額二一、一六一、六〇〇円は損金に算入される規定になつていたからである。

〈4〉 なお上告人は規則第十三条の七の規定により昭和三七年九月三〇日法人税法第十八条の規定により当該事業年度分法人税を申告し、同時に交換による取得資産の帳簿価額も之を申告している。

〈5〉 以上二の〈1〉乃至〈4〉に記述した事実関係及び法律関係は上告人が一、二審を通じ終始一貫して主張して来た処であるが判断されていない。

三、次に、一審判決中(八枚目裏七行以下)

〈1〉 吾が国の税法上法人が資産の交換により取得した資産の価額(時価)は所得計算上は総益金を構成する。そうすると上告人は取得資産の合計金額を三四、四〇八、三八〇円と記載すべきである。然るに一三、二四六、七八〇円と記載したに過ぎない(甲六の二六頁)。そこで差額の二一、一六一、六〇〇円を上告人会社の昭和三七年度分申告の所得金額七、一〇二、一一四円にこれを加算し更正後の所得金額を二八、七九五、七一三円として更正した。この更正処分は何等の違法、不当はなく相当なものであると判示している。

〈2〉 次に一審は上告人が企業会計原則に照し、当該「交換」に因つて生じた二一、一六一、六〇〇円は価値の増加であつて、いまだ所得を構成していない。しかし日本の税法では之を所得に計上すれば全額に課税すると述べた点をとりあげ、結局理由のない主張だとして之を斥けている(判決第十八頁一〇行以下)。

〈3〉 また上告人が租税特別措置法による特例第三八条(三八条の六という規定はない)、第六五条の六、第六五条の四、第六五条の五等を引用した点をとり上げ、上告人のした交換が昭和三六年十二月一日だからこれらの規定は何れも適用できないと判示し、上告人の主張を斥けている(判決十九頁)

〈4〉 上告人が前記〈2〉の企業会計原則を適用し、〈3〉の租税特別措置法を引用したのは、被上告人が当該交換における交換差金一、〇〇九万円は取得資産の評価額三、三六〇万円の二割の六七二万円を超えることになり、そこで規則第十三条の六第三項により第一項の特例は当然之を当該交換に適用できないことになる。そうかと云つて二割を超えた場合、これに適用すべき規定もないがこの譲渡益二、一六一、六〇〇円につき課税しないということは課税公平の原則に反するという型破りの更正処分を被上告人が断行し、上級庁である名古屋国税局長もまたこの原処分を支持して譲らない。そこで上告人はこれを攻防の手段として用いたものである。

〈5〉 一審が前記〈3〉及び〈4〉の上告人の右主張につき之を理由がないものとして斥けた点につき上告人は不服である。しかし之を引用した原審がこの点につき「資本的取引に対する非課税の原則につき縷縷主張するところ、法人税法、その他の法令並びに企業会計原則上そのような配慮のなされていることは肯認できる」と判示しているので、上告人はこの点に関する論評を留保する(原判決六枚目裏八行以下)。

四、なお一審判決は

〈1〉 法人がこの交換により資産を取得した場合、その取得価額は所得の計算上それは総益金になると被上告人は主張し、その法的根拠を、法人税法施行規則第二一条の七第一項(昭和三四年政令第八五号)だと判示した(判決十六頁七行以下)。上告人は被上告人のこの主張に対し、この取得価額は交換時である昭和三七年一二月一日現在における資産再評価に役立つに過ぎないと抗弁してある。

〈2〉 処が被上告人は昭和四三年三月二五日付準備書面により、突如譲渡資産の譲渡直前の認定価額を二三、五一万円に訂正し、この二三、五一万円より譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額二、三四八、四〇〇円を差引き、その差額二一、一六一、六〇〇円の値上益が当該交換による譲渡所得になると改めた。

〈3〉 上告人は被上告人の此の改訂は、従前の主張一切を取消し、或は撤回したものと理解し、当該上告理由を次のように述べる。

本論(理由)

(一) 原審及び第一審共に当該交換譲渡所得に適用すべき規定を誤解している。当時法人税法上には規則第十三条の六、同十三条の七以外に法人の交換に適用すべき適切な規定が存在しなかつた。然るに、

〈1〉 原審は「税法上譲渡所得に対する課税は、資産の売買交換等譲渡を契機に顕在化した右資産の値上り益に対し課税することを本質とするものであり、したがつて右資産の取得価額と譲渡価額の差額に課税するのをその本旨とすると考える」と判示している。

〈2〉 然るに法人税法上どこにも法人の交換に因る譲渡所得に課税する旨の規定がない。

〈3〉 譲渡所得税は売買という契機にその値上り益に課税する。

これは所得税法第三三条所定の譲渡所得税の趣旨であり、この趣旨は法人所得も所得税法上の所得も同じである。之を法人の売買、交換にこれを類推し或は適用してもよいだろうと云われているに過ぎない。

〈4〉 殊に所得税法は交換につきその要件が規則第十三条の六第一項と同一の交換に対しては所得税法第五八条に特例を設け、交換がなかつたものと看做して譲渡所得税を課さないことに規定している。

〈5〉 また原審は措置法第六五条の六の適用につき、同条は昭和三八年四月一日より施行されたので当該交換にこの規定は適用できないと判示したが、この規定は民法第五九八条第二項が存在する限り規則第十三条の六及び第十三条の七の規定は存在の意義がないものとして改正し、新法は交換差金の有無に拘わらず交換による譲渡所得には課税しないことを決めたものである。

従つてこの規定は交換差金付交換には民法第五九八条第二項の存在を配慮すべきことを示唆したものとして重大な意義がある。

〈6〉 規則第十三条の六第一項は納税義務者の負担を軽減する規定である。従つて解釈、適用共にその趣旨に従つて行うことを要す。原審及び第一審共にこの配慮に欠けている。

(二) 当該更正処分には賦課につき適切な規定がない。しかし賦課しなければ公平の原則に反するとして被上告人はこの更正を断行した。又、上告人は民法第五九八条の第二項を適用して当該更正処分を非難し且つその取消を求めている。

然るに原審並に第一審共にこの点に関し判決理由を示していない以上は民事訴訟法第三九五条第一項第六号に該当する違法の裁判として之を当該上告理由の一つに加えるものである。

以上

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